芥川といふ河を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、
「かれは何ぞ」
となむ男に問ひける。
「芥川」の話も10回目になるのに、ほとんど進みませんね……。まぁ、気長にやっていきましょう(苦笑)。
さてこれまで「芥川といふ河を率て行きければ」を「芥川という川に(女を)連れていったところ」と訳すところまで来ました。
次です。
「草の上に置きたりける露を」は、「草の上におりた夜露を」でいいでしょう。夜露を「置く」というのは現代人の私たちにとって「ヘン」ではありますが、こう訳すしかないでしょうね。
「かれは何ぞ」の「かれ」ですが、現代語でいう「あれ」でしょうね、とりあえず。
これは指示語で、現代語では手元から始めて「これ」→「それ」→「あれ」となって、段々遠くなっていきますが、古語では「あれ」のもう一つ先に「かれ」があるのです。整理しておくと、こうなります。
これ(とても近いものを指す)
↓
それ(結構近いものを指す)
↓
あれ(ちょっと遠いものを指す)……現代語はここで終了
↓
かれ(遠いものをさす)
並べてみればわかりますが(並べなくてもわかるかな)、ポイントになるのは「こ・そ・あ・か」です。「こそあど言葉」ってありますよね。要するに、これって「こそあど言葉」です。これに「か」が入っているわけです(ちなみに「ど」は疑問詞「ど」)。「こなた→そなた→あなた→かなた」なんていうのも同系列ですね。
現在は「かれ」といえば「彼」であり、男性に対する3人称であり、「これ、それ、あれ」の流れには入っていませんので、ここでは「あれ」と訳しておきましょう。
「何ぞ」の「ぞ」は強調です。あまり深く考えないこと。考え始めると、すごくディープな世界へと入っていくことになります(笑)。ここでは「一体」という言葉をつけて、誤摩化しておきます。もちろん、「一体」が無くても結構です。
ということで、「かれは何ぞ」は「あれは一体何でしょうか」となりますかね。丁寧語を使ったのは、女性らしいやわらかさが欲しかったからです。「ありゃ、一体なんじゃいな?」でも文法的には間違いないんですが、お姫様の言葉としてはね〜。
「となむ問ひける」の「なむ」は係助詞。強調を表しますが、無視してもらって結構です。今後、係助詞「なむ」が登場したら、翻訳上は無視することにしましょう。
「問ひける」の「ける」は間接過去。係助詞「なむ」の影響で、連体形になるわけです。所謂「係り結び」です。
ここでは直接過去「き」ではなく、間接過去「けり」が使われているのもちょっとチェック。このお話は実体験ではないことを示しています。
今回はさくさく進みました。
それにしても、このお姫様はすさまじい方なんでしょうね。なんせ、夜露もみたことがない。夜になれば早々にお休みになるのでしょうか?
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