理屈は進んだのに、内容が全くすすみません(苦笑)。
ご了解ください。
むかし、男ありけり。女の、え得(う)まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、辛うじて盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ河を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、
「かれは何ぞ」
となむ男に問ひける。
話がややこしくなったのは、そもそも「女の、え得(う)まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを」というフレーズのせいでした。しかし、その問題もようやく片付き、
手に入りそうにない女を、(そして)長年、求婚し続けていた(その女)を、盗み……
とすることとなりました。やれやれ。
次です。
「辛うじて」は、「かろうじて」で、現代語にもあるので省略。
「盗み出でて」は「盗み出す」とも訳せますし、「盗んで出てきた」とも訳せます。「出づ(いづ)」が他動詞「出す」でもあれば、自動詞「出る」でもあるためで、この場合はどっちでもよろしい。
訳本を見る限りでは、「盗み出す」の方が多いようです。
おそらく、「女を」という目的語があるため「盗み」は他動詞、「出づ」は「盗み」と連続して一句となっていますので、同じく他動詞と解釈されているのでしょうね。
私も、「盗み出す」の方がいいと思います(「女を盗んで出て来た」と訳すのも悪くないとは思いますが)。
「いと暗きに来けり」は「暗き」が問題。形容詞「暗し」の連体形で「暗い〜」の意ですが、暗い何なんでしょう?考えられるのは、「暗い時間に」か「暗い所に」か、どちらかでしょうね。さてどっち?
この問題を考える上で、筑摩が面白いヒントを与えてくれています。
「月も星もない闇夜である。男はこの暗さに乗じてひた走るのだが、闇夜は鬼の出現の条件でもある。」
なるほど、この「暗き」は「鬼」出現のための伏線だった、というわけですね。この指摘は面白いですね。
この指摘を受けて「暗き」を考えてみると、要するに「暗き」とは「闇」を示しているのであって、「闇」を示すんなら「暗い時間(=闇夜)」でも「暗い所(=闇夜の空間)」でもあんまり関係ない、となりますね(電灯がない平安時代、「闇夜」はどこもかしこも「まっくら」ですから)。
じゃ、「暗き」は「闇夜」でいきましょう。
「来けり」は冷静に考えれば、何かへん。女を盗み出して、「やってきた」って、どこに?普通は女を盗み出して「行ってしまった」じゃないの?
次の文には「芥川といふ河を率て行きければ」とあり、男のやってきた場所が「芥川」と明示されています。
でもこれもなんかヘン。なんで、このタイミングで「芥川」なの?
現代人として考えてみると、普通、「かろうじて盗み出して、深い闇夜の中を芥川までやってきた」となるんじゃないのかな?
そう思いません?
この辺の細かい矛盾が、古文のやな所でもあり、面白いところでもあるんですよね(苦笑)。
さてさて、ではこれはどうしましょうか?
私は、「来けり」は物語の舞台にやってきたんだろうな、と半ば自暴自棄的に解釈しています。
役者が舞台に登場してくるイメージ?
「男がやってきてみると、そこは芥川であった」って感じ?
言い方が、なんかぐちゃぐちゃになってる。そう考えてることにしました(いいのか……(笑))。
→深い闇夜の中をやってきた。
とりあえず、こうしときます。
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