前回、対応関係の話をしましたが、理解のしようによっては、これも対比の一種ととらえてもいいかもしれません。あるいは、同義反復と捉えることも可能でしょう。
どっちなのか、と思う人もいるかもしれませんが、どちらでもかまいません。
なぜなら、これは「手段」だからです。目的は正解にたどりつくことです。
「同義反復」ならば、「対応しているところはどこだ?」と考えるはずです。
また「対比」と捉えても、やはり「対応しているところはどこだ?」と考える事でしょう・
どっちにしても同じことです。
さて、今日の本題です。
推測する技術
問題文と課題文を引用しておきます。
A 「有蛇螫殺人、為冥官所追議、法当死。蛇前訴曰『誠有罪、然亦有功、可以自贖』。冥官曰『何功也』。蛇曰『某有黄、可治病、所活已数人矣』。吏考験、固不誣、遂x。
B 良久、牽一牛至。獄吏曰『此牛触殺人。亦当死』。牛曰『我亦有黄、可以治病、亦活数人矣』。良久、亦x。
C 久之、獄吏引一人至。曰『此人生常殺人、幸免死。今当還命』。其人倉皇妄言亦有黄。冥官大怒、詰之曰『蛇黄・牛黄皆入薬、天下所共知。汝為人、何黄之有。』左右交訊、其人窘甚曰『某別無黄。但有些慚惶。』」
問4 本文中の二箇所の空欄xにはどちらも同じ語句が入る。その語句を(ⅰ)の①~⑤のうちから一つ選べ。また、(ⅰ)の解答をふまえて、本文から読み取れる蛇と牛に対する冥官の判決理由を説明したものとして最も適当なものを、(ⅱ)の①~⑤のうちから一つ選べ。
AとBとは同系列の話(ひろくとれば、同義反復といってもよいでしょう)であることは、既に述べましたし、それを用いて問題を解いてきました(ここのところの判断は難しいのですが)。
AとBとが同系列ということがわかりさえすれば、xに入るのは、AB共通の「オチ」であることとなります。
内容をあらためて確認しておきましょう。
蛇と牛は裁判にかけられて死刑を宣告されてしまう、宣告されてからそれぞれ言い訳をする。蛇は「某有黄、可治病、所活已数人矣」と言い、牛は「我亦有黄、可以治病、亦活数人矣」と言っています。共通しているのは、どちらも「黄」を言い、「活数人」と言っていることです。
「黄」は注11(ここでは掲載を省略しました)に「蛇黄・牛黄」とあるように、薬のことのようです。
「黄」が薬の名だとすれば、蛇や牛の言っているセリフの内容も理解しやすくなります。薬のことをいっているのだから「活数人」は数人を助けた、ということでしょう。
とすれば、その前に言っていることは「確かに人を殺したけれども」のはずです。なんせ死刑を宣告されているのですから。
ここまで理解できたなら、xの内容は、最終判決の内容が入るはずです。すなわち、そのまま死刑か、あるいは死刑じゃなくなるか、です。
問題を確認しましょう。
(ⅰ) 空欄に入る語句
① 得免 ② 不還 ③ 有功 ④ 得死 ⑤ 治病
解答は①か④しかありませんね。残りは判決になりません。
では助かったのか、死刑になったのか。
そのヒントはCにあります。
蛇、牛に続いて、今度は人が来ました。どうせ同じパターンです。
同じパターンだとすれば、言うことは決まってます。どうせ「黄」がある、数人助けた、です。
ではなぜ、この人はこんなことを言っているのか?
簡単ですね、前の蛇と牛がそれで助かったからです。助からないようなことを言う訳がありません。
ここから蛇と牛は助かった、つまり解答は①ということになります。
次に行きましょう。
(ⅱ) 判決理由の説明
① 蛇も牛も、生前人を殺した上に、死後も「黄」によって人を病気から救うことができるとでたらめを言って、反省していない。よって、死罪とする。
② 蛇も牛も、人を殺してきた罪は許しがたい。よって、今後「黄」によって人を救う可能性はあっても、冥界に留め置き罪を償わせることとする。
③ 蛇も牛も、人を殺してきたが、体内の「黄」で将来は人の命を救う可能性は残っている。よって、人の病気を治すことで罪を償わせることとする。
④ 蛇も牛も、人を殺すという重大な罪を犯したが、自らの「黄」によって人を病気から救ってもきた。よって、生前の罪を許すこととする。
⑤ 蛇も牛も、人を殺してきたというのは誤解で、むしろ大勢の人を「黄」によって病から救うという善行を積んできた。よって、無罪とする。
答えは④です。説明は不要でしょう。
次に行きましょう。
問5 傍線部C「冥官大怒」とあるが、その理由として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
冥官が怒った理由は何か、これが問題の求めていることです。
状況を確認しておきますと、場面は裁判です。死刑と宣告された「人」が「黄がある」といいました。これは人を助けたことがある。だから死刑は勘弁してほしい、と主張しているわけです。
そして冥官が怒る。
これが状況です。
では冥官は誰に対して怒ったのか。それは「人」に対してです。
「人」が素直に死刑を受け入れていたら、冥官が怒るはずはありません。「人」が何かしら、ろくでもないことをやらかしたから、冥官は怒るわけです。
では「人」は何をやらかしたのか?
ここでは「黄」がある、といっているだけです。
では、なぜ「黄」がある、といって怒るのか?
注11に蛇黄・牛黄とありますが、「人黄」とはありません。人に「黄」はありません。
つまり、人には「黄」はないのに、「ある」と言ったから(「人」が裁判の場で嘘をついたから)、冥官は怒ったわけです。
冥官のセリフを確認します。
『蛇黄・牛黄皆入薬、天下所共知。汝為人、何黄之有。』
前半部は「蛇黄・牛黄が薬であることは、天下周知のことである」ということですね。
後半部は問題になっていますが、これまでの流れから言って、大意は「人が黄などもっているわけ、なかろうが!!」といったところでしょう。
選択肢を確認しましょう。
① 蛇や牛と同様に人にも「黄」があるので人を殺した罪は許されるはずであると、その人に理路整然と説明され、獄吏の言葉が論破されそうになったことにいらだちを感じたから。
② 蛇も牛も人もみな生前は人を殺していたのに、体内に「黄」があるのを良いことに言い逃ればかりし、全く反省の色が見られないその人の不謹慎な態度が気に障ったから。
③ 生前に人を殺した上に、冥界に連れてこられてからは自分にも蛇や牛のように体内に「黄」が欲しいと、獄吏にわがままばかりを言うその人の態度に我慢がならなかったから。
④ 蛇や牛は体内の「黄」で人を救っているのに、その人は「黄」の用い方を知らずにあいまいなことを言って、人を救わずに殺してばかりいることに憤りを感じたから。
⑤ 生前に人を殺したにもかかわらず、自分の罪を逃れるために、蛇や牛のまねをして自分の体内に「黄」があると、その場しのぎのいい加減なことを言うその人の態度に腹を立てたから。
選択肢の文が長いので、主文だけとります。現代文と同じ要領です。
① 獄吏の言葉が論破されそうになったことにいらだちを感じたから。
② 蛇も牛も人も、全く反省の色が見られないその人の不謹慎な態度が気に障ったから。
③ 獄吏にわがままばかりを言うその人の態度に我慢がならなかったから。
④ 人を救わずに殺してばかりいることに憤りを感じたから。
⑤ その場しのぎのいい加減なことを言うその人の態度に腹を立てたから。
これだけでもわかりますね。
解答は⑤です。
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