やっと内容にとりかかります。
むかし、男ありけり。女の、え得(う)まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、辛うじて盗み出でて、いと暗きに来けり。
「むかし、男ありけり」は、既にお話しました。ここから物語が始まります。
「女の、え得まじかりけるを」も、①「え〜ず」②同格がポイントといいました。
次です。
「年を経てよばひわたりけるを」について。「年を経て」とは「年」はそのまま「年月」のこと、「経」とは「経過する」ことです。
「よばひ」とは原形は「よばふ」、「よば」+「ふ」で成立している語です。
「よば」は「呼ぶ」の意、「ふ」は反復・継続をあらわすとのことですので(上代では助動詞だったとのことです)、本来は「呼びつづける」の意だったんですね(以上べネッセ「全訳古語辞典」)。
それが、おそらく「誰を呼びつづけるの?」というところあたりから、転化していったのでしょう。好きな女性を呼び続けるということで、「求婚する」の意になったんじゃないでしょうか(と私は考えてます)。ベネッセによれば「求婚する」の場合は「婚ふ」と書くこともあるそうです。そのまんまですね。
「わたる」は「広く空間的・時間的に移動する」が原義のようです。それが補助動詞になり「〜しつづける」の意味になったそうです(ベネッセ)。
あれ?「よばふ」の「ふ」は「〜しつづける」の意、「わたる」も「〜しつづける」の意なら、「〜しつづける」が2つあることになっちゃうんじゃないの?
そう、たぶんそのとおりでしょうね。
ただ、それは結果的にそうなっただけであって、上代を過ぎて「よばふ」の「ふ」が意味不明になっていたから、あらためて「わたる」がついたんでしょうね。つまり、作者は「ふ」に「〜しつづける」という意味があるなんて、思っちゃいない、だから作者にとって「〜しつづける」はひとつしかない、ということになるんでしょうね。
以上から「年を経てよばひわたりける」は、「時間が経過して求婚し続けてていた」となります。
意味がわかりませんね。じゃ、前後の確認。
「手に入りそうにもない女」がいたわけです。「時間が経過」しました。「求婚し続け」ました。
邪魔臭いの、どれでしょうか。
「時間が経過」ですね。「手に入りそうにもない女」がいて、その女に「求婚し続けた」のならば、何の問題もありませんから。わかんないのは、「時間が経過」して「求婚し続ける」って、どういうこと?ってことです。
これ、「長年」「求婚し続けた」ということなんです。逆にすれば、わかりやすいんですよね。すなわち
「時間が経過して、求婚し続けた」
=「求婚し続けているうちに、時間が経過していった」
=「長年求婚し続けた」
まぁ、多少無理があるのは承知ですがね(笑)、できるだけ原文を生かそうとすれば、こうするのが一番かな、と思います。
もともと、あんまり深く考えて書かれたわけじゃないんでしょうね。
だって、娯楽のための物語なんですから。
だからってわけじゃありませんが、次の「を」の解釈も苦しいわけです。
女の、え得(う)まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、辛うじて盗み出でて、
この「よばひわたりけるを」の「を」って何?
「盗み出でて」の目的語ってこと?
あれれ……?
何が「あれれ」か、わかります?
このへんのことは、また明日。
今日はここまで。
PR