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今日の国語

シンプルに

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芥川12

男、弓、やなぐひを負ひて戸口にをり。 はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに、 鬼、はや一口に食ひてけり。「あなや」と言ひけれど、 神鳴る騒ぎに、え聞かざりけり

 女を連れて逃亡中、夜も更けたし雨も降ってきたし、その上、雷までも鳴り始めたので、あばら屋に緊急避難した男でしたが、そこは鬼の住む所でした。今日の箇所を逐一説明していきましょう。

男、弓、やなぐひを負ひて戸口にをり」とは、弓は問題ないでしょう。「やなぐひ」とは矢をいれる道具で、背中に背負うものです。男は武装したんですね。それであばら屋の入り口にたって、女を守っている。訳は「男は弓とやなぐいを背負って、戸口に立っている」となりますね。

はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに」は「なむ」がポイント。「なむ」は願望を表す終助詞です。「~したい」「~してほしい」と訳します。助詞ってあんまり問題にならないんですが、この「なむ」は例外で重要です。ちなみに未然形接続です。そうそう、係助詞にも「なむ」ってありますよね。これとの識別が問題にされる時もあります。識別の方法?簡単ですよ。願望の「なむ」って終助詞ですから、基本的に文末にしかきません。でも係助詞の「なむ」は文の途中にしかきません。文末に来たら、どうやって文末の連体形を作るんですか?(笑)ただし、「省略」の場合もありますので、一概にはいえませんがね。訳は「早く夜もあけてほしいものだと思いながら(戸口のところに)いたところ」となります。

鬼、はや一口に食ひてけり」は、「食ひてけり」の「て」は完了「つ」の連用形。訳は「鬼ははやくも一口で食べてしまった」となります。

「あなや」と言ひけれど、」は、「あなや」は女の叫び声。「あれえ」と訳すのが多いですね。訳は「「あれえ」と言った(叫んだ)けれど」となります。

神鳴る騒ぎに、え聞かざりけり」は「え~ず」が最重要ポイント。不可能を表し、「~できない」と訳します。「神」はもちろん「雷」。訳は「雷が鳴る騒ぎで、(女性の悲鳴が)聞こえなかった」となります。「え聞かざりけり」を「聞かなかった」などと訳さないように。不注意です。

 今日はこれまで。

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芥川11

行く先多く、夜もふけにければ、鬼ある所とも知らで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて、

 

 ここは一見なんてことのないように見えますが、なかなか訳しにくいところです。まずは、逐一確認してみましょう。

 「行く先多く」は「行く先遠く」の誤りとするのが一般です。状況は姫君を盗んで逃げてきて、芥川までやってきて、というシチュエーションですからね。ここで宅配便じゃあるまいし、行く先が多くってもしょうがない。安住の地を求めて逃げているのですから、安住の地はまだまだ遠く、の意味で「行く先多く」は「行く先遠く」の誤りとするのがいいでしょう。もっとも、何でこうなったのかわからないので、本当にこれでいいのか、ちょっと不安ではありますがね。とりあえずここでは「行き先遠く」の誤としておきます。

 「夜もふけにければ」は「夜も更けたので」ということ。「已然形+ば」に注意。

 「鬼ある所とも知らで」は「鬼がいる所とも知らずに」ということ。主語がありませんけれど、芥川まで逃げてきたと行っているので、「この芥川の地は」が主語になるでしょうね。

 「神さへいといみじう鳴り」は「さへ」は添加と言われています。「(それに加えて)~までも」と訳します。それほど難しくはないのですが、ちょこちょこテストで尋ねられるところですね。 旺文社全訳古語辞典から用例を紹介しましょう。

をとついも昨日も今日も見つれども明日さへ見まく欲しき君かも(万葉集6/1019)(おとといも昨日も今日もあったけれども、そのうえ明日も逢いたいあなただなあ)

 似たような言葉に「だに」というのがあります。中世以降、「さへ」は「だに」と混同されていくのですが、それはまた別の項目でお話します。

 「神」は雷のこと。「鳴り」でピンときてほしいですね。だって神様が「鳴る」わけないでしょ(笑)。

 そうそう、ここの「いといみじう」は、テストで訳すときにはちょっと注意が必要です。「いと」と「いみじう」とありますので、訳すときには「とても」+「激しく」とでもしておかなければいけません。それを「激しく」しか書かなければ、意味的には大して変わりはないかもしれませんが、「いと」の訳し漏れとして減点されてしまいます。テストの現代語訳は「逐語訳」を基本として、あとは文脈にあわせて自然な日本語になるように心がけてください。

 「雨もいたう降りければ」は「雨も強く降ったので」ということ。ここでも「已然形+ば」が登場しています。

 「あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて」は、「あばらなる」は形容動詞です。「あばら」といえば「肋骨」を連想しますので名詞かな、とも思われますが、漢字でかけば「荒らなり」「疎らなり」となり、形容動詞であることは理解されるでしょう。荒れ果てて、物がなくて、がらんとしている様子のことです。

ちょうど、そういう蔵があったんでしょうね、「女を(蔵の)奥に押し入れ」たわけです。

 ちなみにですね、この「がらんとした様子」が発展して、「まばらだ、手薄だ」の意味も発生します。ベネッセ古語辞典より用例を紹介しましょう。

高橋心はたけく思へども、後ろあばらになりければ、力及ばで引き退く(平家物語7篠原合戦)(高橋長綱は気を強く持っているが、背後(の味方の兵)がまばらになったので、戦力が足りず退却する)

後続の味方が「あばらに」なったので退却した。つまり、後続の味方の数が減ってしまって手薄になってしまったので退却した、というわけです。

 また、「あばる(荒る)」という動詞もあります。「(家などが)荒れ果てる」ことであり、「暴れる」ことではありません。これもベネッセより用例を紹介しておきましょう。

女のひとり住む所は、いたくあばれて、築土〔ついひぢ〕なども全〔また〕からず……(枕草子178)(女が一人で住んでいる所は、ひどく荒れ果てて、土塀なども完全ではなくて……)

 「女が一人で住んでいる所は、(乱暴な男がやってきて)ひどく暴れて、土塀なども(壊されてしまい)完全ではなくなり」と訳す人がいるかもしれませんね(笑)

 

 さて以上を並べてみましょう。

 「行く先遠く」「夜も更けたので」「鬼がいるところとも知らずに」「雷までもとても激しく鳴り」「雨も激しく降ったので」「隙間だらけの荒れ果てた蔵に女を奥に押し入れて」

 となります。意味わかります?

 安住の地まではまだまだ遠く、夜も更けたので、鬼がいる所ともしらずに、雷まで激しく鳴り、雨も激しく降ったので、 隙間だらけの荒れ果てた蔵に女を奥に押し入れて……

 なんとなくはわかりますがね、それじゃ通用しないのです。もっとよく考えなければ。

 片桐洋一先生が、面白いことを言っています。ここは文の構造がややこしいんですね。

(行く先多く、夜もふけにければ、)鬼ある所とも知らで、(神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、)女をば奥に押し入れて

 括弧をつけてみましたが、要するに括弧の部分が追加みたいなものなんです。本来は「鬼ある所とも知らで、女を奥に押し入れて」だったんですが、これにそれぞれ理由をくっつけた。だから表現上「已然形+ば」が繰り返されることになった、というわけです。なるほどねぇ~。

 この考え方に沿って、訳を組み立てなおすと、こうなりますかね。

 安住の地まではまだまだ遠く、夜も更けたので、鬼がいる所ともしらずに、(それに)雷まで激しく鳴り、雨も激しく降ったので 隙間だらけの荒れ果てた蔵に女を奥に押し入れて……

 中に「それに」を追加しただけです。ただそれだけ。でも、この一言を入れられるかどうかで、理解度を計ることができるわけです。

 できるだけシンプルに、ということは、時として背景はおそろしく複雑にならざるを得ない、ということでもあるわけです。

 

 

 

 

 

芥川10

芥川といふ河を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、
「かれは何ぞ」
 となむ男に問ひける。
 
 「芥川」の話も10回目になるのに、ほとんど進みませんね……。まぁ、気長にやっていきましょう(苦笑)。
 さてこれまで「芥川といふ河を率て行きければ」を「芥川という川に(女を)連れていったところ」と訳すところまで来ました。
 次です。
 「草の上に置きたりける露を」は、「草の上におりた夜露を」でいいでしょう。夜露を「置く」というのは現代人の私たちにとって「ヘン」ではありますが、こう訳すしかないでしょうね。
 「かれは何ぞ」の「かれ」ですが、現代語でいう「あれ」でしょうね、とりあえず。
 これは指示語で、現代語では手元から始めて「これ」→「それ」→「あれ」となって、段々遠くなっていきますが、古語では「あれ」のもう一つ先に「かれ」があるのです。整理しておくと、こうなります。
 
これ(とても近いものを指す)
それ(結構近いものを指す)
あれ(ちょっと遠いものを指す)……現代語はここで終了
かれ(遠いものをさす)
 
 並べてみればわかりますが(並べなくてもわかるかな)、ポイントになるのは「こ・そ・あ・か」です。「こそあど言葉」ってありますよね。要するに、これって「こそあど言葉」です。これに「か」が入っているわけです(ちなみに「ど」は疑問詞「ど」)。「こなた→そなた→あなた→かなた」なんていうのも同系列ですね。
 現在は「かれ」といえば「彼」であり、男性に対する3人称であり、「これ、それ、あれ」の流れには入っていませんので、ここでは「あれ」と訳しておきましょう。
 「何ぞ」の「ぞ」は強調です。あまり深く考えないこと。考え始めると、すごくディープな世界へと入っていくことになります(笑)。ここでは「一体」という言葉をつけて、誤摩化しておきます。もちろん、「一体」が無くても結構です。
 ということで、「かれは何ぞ」は「あれは一体何でしょうか」となりますかね。丁寧語を使ったのは、女性らしいやわらかさが欲しかったからです。「ありゃ、一体なんじゃいな?」でも文法的には間違いないんですが、お姫様の言葉としてはね〜。
 「となむ問ひける」の「なむ」は係助詞。強調を表しますが、無視してもらって結構です。今後、係助詞「なむ」が登場したら、翻訳上は無視することにしましょう。
 「問ひける」の「ける」は間接過去。係助詞「なむ」の影響で、連体形になるわけです。所謂「係り結び」です。
 ここでは直接過去「き」ではなく、間接過去「けり」が使われているのもちょっとチェック。このお話は実体験ではないことを示しています。
 
 今回はさくさく進みました。
 それにしても、このお姫様はすさまじい方なんでしょうね。なんせ、夜露もみたことがない。夜になれば早々にお休みになるのでしょうか?
 
 

芥川⑨ 已然形+ば

芥川⑨「已然形+ば」

 

 しばらく間があいてしましました。

 時々、こういうこともあります。どうかご了承ください。

 

 さてさて、芥川、といいながら、今回は(も?)本文には全然触れません。今日は、「已然形+ば」の話です。

 

 まずは前回の復習ですが、「ば」の用法には「未然形+ば」と「已然形+ば」の二種類がありました。

この両者はもちろん意味が異なるため、訳し方も変わります。そのニュアンスだけを、もう一度紹介しておくと、以下のとおり。

 

「未然形+ば」→(まだそうなってはいないんだけどさ)というのが前提にある

「已然形+ば」→(もうそうなっているんだけどさ)というのが前提にある

 

 今回扱うのは、「已然形+ば」なんですが、これ、「未然形+ば」に比べると、ほんの少々、クセがあるんですね。

 というのは、「未然形+ば」は「まだそうなってはいない」が前提の用法です。

 まだそうなっていない、ということは、そうなっていないことをわざわざ持ち出すんですから、当然、「たら、れば」の話になる、すなわち「仮定」になってしまい、それで終わり。

 だから「未然形+ば」は仮定の用法しかないわけなんですね。

 ところが、「已然形+ば」は、そう簡単にはいきません。なんせ、「事件」はおこってしまっているのですから。

 「事件」に対応する方法は、大きくいって2つ。「それ」と関係するのか、しないのか、です。

 

A 順接の確定条件

(もうそうなっているんだけどさ)、だから……

 →「そうなっている」ことをきちんと受け止めて、それを理由に次にいくパターンですね。

 「そうなっていること」が理由、「だから」以降が結果。訳し方は「~ので」となります。

 ちなみに、この「~ので」の訳し方は「順接の確定条件」と呼ばれているのは、おそらく「未然形+ば」が「仮定」条件だったので、仮定に対応させて「確定」としたんでしょうけど(ちがうのかな)、もしそうだとすれば、もう少し命名に工夫が欲しかった、と思うのは私だけでしょうか?そのまんま「因果関係」でいいと思うんだけどな。

 ま、名称はさておき、例文をみておきましょう。

 

①京には見えぬ鳥なれば、皆人見知らず(伊勢物語09)

  →都では見かけない鳥であるので、(そこにいる人は)みんな見知らない。(数研出版「体系古典文法」)

②あしくさぐれば、なきなり。(竹取物語)

  →下手に探すから、ないのだ。(尚文出版「これからの古典文法」) 

③いと幼ければ、籠(こ)に入れて養ふ(竹取物語)

  →たいそう小さいので、籠にいれて育てる

④事に触れて数しらず苦しきことのみまされば、いといたう思ひわびたるを(源氏・桐壺)

  →何かにつけて数えきれないほどたくさんつらいことばかりが重なるので、たいそう思い悩んでいるのを

(文英堂「全解古語辞典」)

⑤京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。(伊勢9)

  →京都では見ることのできない鳥であるので、その場にいる人全員が(なんという鳥であるのか)見てもわからない。

(「ベネッセ全訳古語辞典」)

ちなみに、問題にされやすいのはこのパターンです。

 

 

B 偶然条件(偶発条件)

(もうそうなっているんだけどさ)、それはそうとして、そうなってみると、

 →「そうなっている」ことを、さらりと流して終わり。「そうなっている」ことを理由としないパターン。 

 用語としては「偶発条件」(尚文出版)とか「偶然条件」(数研出版)とかいいますが、これもどうなのかな~。偶発とか偶然とかいうと、どうしても「たまたまそうなっちゃった」というニュアンスがでて、これが「已然形+ば」とどう絡むのか、わかりにくいもんね。何とか表現しなきゃいけないから、こうなったのだろうけど、要するに因果関係はない、ということです。もうちょっと突っ込んでおくと、現代語で「(ちょっと)横をみてみれば、先生がそこにいた」という文があったとするでしょ。これ、「(ちょっと)横を見てみると」としても別に問題はありませんよね(細かいニュアンスの相違はあるだろうけど)。少なくとも「(ちょっと)横を見てみたので、先生がそこにいた」と置き換えることはできませんよね。横を見たせいで先生が登場するなんて……。先生は化け物か何かですか、という話になる。なんせ湧いて出てきている訳ですから(笑)。

 さてさてわかります?この違い。前者が偶然条件で、後者が順接の確定条件なわけですよ。以下、例文をあげておきます。

 

⑥それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり(竹取物語)

  →それを見ると、三寸(10センチ)ぐらいの人が、とてもかわいらしい様子ですわっていた。

(数研出版「体系古典文法」偶然条件)

⑦帰りたければ、ひとりついたちて行きけり。(徒然草60)

  →帰りたくなると、ひとりぷいと立って行った。

    ※これ、「帰りたいので」と訳したくなりますよね。

(尚文出版「これからの古典文法」偶発条件)

⑧筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり(竹取物語)

  →筒の中が光っている。それを見ると、三寸ほどである人が、たいそうかわいらしい様子で座っている

(文英堂「全解古語辞典」偶然のきっかけ・契機)

⑨それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり(竹取物語)

  →それ(竹の中)をみると、(身長が)三寸ほどである人が、とてもかわいらしい様子で座っている

※「上一段動詞「見る」の已然形に付いている例。そこを見たらたまたま人が座っていた、という意味で、「ば」の前の句と後の句には因果関係はない。このような接続の条件を「偶然的条件」ともいう。」

(「ベネッセ全訳古語辞典」)

 

C 恒時条件(恒常条件)(……といつも/……と必ず)

⑩瓜食(は)めば子供思ほゆ栗食めばまして偲はゆ(万葉集5)  

  →瓜を食べるといつも子供のことが思われる。栗を食べるといつもいっそうしのばれる。

(数研出版「体系古典文法」)

⑪財(たから)多ければ、身を守るにまどし。(徒然草38)

  →財産が多いと必ず、身を守るのに不十分となる。

(尚文出版「これからの古典文法」恒時条件(恒常条件))

⑫家にあれば笥(け)に盛る飯(いひ)を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る(万葉2・142有馬皇子)

  →家にいるといつも器に盛る飯を、旅にあるので椎の葉に盛る

※「謀反の嫌疑を受け、審問のため紀伊へ護送された有馬皇子はその帰途、殺されてしまう。その護送の途中で詠んだ歌。歌の内容は旅にあって我が家を懐かしんだものであるが、死を直前にするという事態から、日常的な事柄もかけがえのないものとなっている。「草枕」は枕詞。」

⑬命長ければ、恥多し(徒然草7)

(文英堂「全解古語辞典」順接の一般的・恒常的な条件関係を表すの項目)

⑭作り据ゑたる酒壷に、差し渡したる直柄(ひたえ)のひさごの、南風吹けば北になびき、北風ふけば南になびき……(更級日記・竹芝寺)

※「四段動詞「吹く」の已然形に付いている例。ある条件のもとではいつも決まって、後に述べる結果になることを表す用法。」

(「ベネッセ全訳古語辞典」順接の恒常的条件)

 

 大体この3つを覚えておくと、大丈夫と思います。細かいこといいだすとキリがありませんしね(笑)。

 それにしても、この3番目の「恒時条件」というのが、面倒くさいんですよね。例えば⑪の場合、

   →財産が多いので、身を守るのに不十分となる

でも、いいように思いません?⑬もそうですね。

   →命が長いので、恥が多い

これもよさそうに見えません?

 で、実は文法だけに拘れば、これはこれでOKです。じゃ、なんでそうしないのか?

 理由は簡単です。この訳では、本文に戻した時にうまくいかないから。つまり、「文脈上の問題」で訳が決定されるんですね。

 じゃ、折角訳しても、本文に戻して確認しなければ、これでいいのかどうか、わかんないってことなの?

 はい、その通りです。面倒かもしれませんが、最後は文章に戻して、この訳でいいのか考える。これも語学の一環ということでご理解くださいね。

 この項目、一応終了ということで、次から本文に戻ります。

芥川⑧「未然形+ば」説明

芥川といふ河を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、
「かれは何ぞ」
 となむ男に問ひける。
 
 今日は、いよいよ「ば」の話です。「ば」だけです。やっぱり話は進みません。
 
 さてさて、「ば」についてです。古文を勉強する上で、ここは非常に重要です。
 なぜ重要なのか、ですって?
 現段階では、そのへんに頭を使うのはやめましょう。
 重要なものは重要といいますので、「ああ、重要なのね」と思っといてください。
 それでは。
 
 「ば」が問題となるとき、それは必ず「ば」の前にある単語(用言)を含めて問題となります。
 具体的に言うと、「ば」の前が「未然形」なのか「已然形」なのか、ということで、問題となるのです。
 これ次第で、文の意味が変わってきます。
 
 では「未然形」とは何か?「已然形」とは何か?
 ここから話を始めましょう。
 
 未然形、已然形とは活用の形ですね。普通はそこで終わるのかもしれませんが、この文字面をよく見てください。「未然」と「已然」と、形は似ていますよね。漢文が得意な人は、もうお分かりかもしれません。書き下し(訓読)してみましょう。
 
未然→未だ然らず(いまだ しからず)=まだ、そうじゃない
已然→已に然り(すでに しかり)=もうすでに、そうだ(そうなっている)
 
 なんのことはない、未然と已然とは、「まだ」と「もう」という具合に、意味が正反対なんですね。
 だから、未然形は「まだ」のニュアンスがあり、已然形には「もう」のニュアンスがあるわけです。
 誰が「未然形」「已然形」と命名したのか知りませんが、よくできてますね。
 
 前述のとおり、「ば」の用例は2種類あります。
 ひとつは「未然形+ば」、もうひとつは「已然形+ば」です。
 この2つは訳し方が違うのですが、どう違うかというと、「未然形+ば」は「まだ」のニュアンスをもっており、「已然形+ば」は「もう」のニュアンスを持っているのです。すなわち……
 
「未然形+ば」→(まだそうなってはいないんだけどさ)というのが前提にある
「已然形+ば」→(もうそうなっているんだけどさ)というのが前提にある
 
 これが、「ば」の問題を考える上での、全ての根幹になります。
 簡単な方からやりましょう。「未然形+ば」からですね。例文を見ながら説明しましょう。
 先日アップした資料です。
 
①悪人のまねとて人を殺さば、悪人なり(徒然草85)
 
 「ば」の前に「悪人のまねとて人を殺さ」とありますね。
 ポイントになるのは、「ば」の直前、「人を殺さ」の部分。「殺さ」は四段動詞「殺す」の未然形。
 未然形ですから「まだ」のニュアンスがあるはずですね。
 つまり、「まだ殺してないけどさ」という意味。
 これをもう少し発展させたのが、「未然形+ば」なんです。
 つまり、「まだ殺してないけどさ、もし殺したとすればだよ、……」となるのが「未然形+ば」なんです。
 もう少し突き詰めておくと、「まだそうなってはいないけどさ、もし、そうなったらだよ」というのが「未然形+ば」の訳し方で、こういう訳し方を「仮定条件」といいます。「仮定」とは「もし、そうならば」という言い方のことですね。
 
 訳です。
  →悪人のまねだといって人を殺すならば、(それは)悪人である。(数研出版「体系古典文法」)
 
 あとは同じ要領ですね。
 
②宮仕へに出だし立てば、死ぬべし。(竹取物語)
 「出だし立つ」という言い方が面倒ですが、ここでは「出す」の意味です。ですから「まだ宮仕えに出していないけどさ、もし出すとすればだよ」というニュアンスが前半部にあることになりますね。
  →宮仕えに出すならば、死ぬつもりだ。(尚文出版「これからの古典文法」)
 
③折りとらば惜しげにもあるか桜花いざやど借りて散るまでは見ん(古今/春上)
 「折りとらば」=「まだ折りとってはいないけど、もし折りとるとすればさ……」
  →もし折取ったらいかにも惜しいなあ。桜の花をさあ宿をとって散るまでみよう。(文英堂「全解古語辞典」)
 
④都にあるならば、またうきめをもみむずらん(平家1・祇王)
 ここでは主語が提示されていないので訳しにくいですが、主語は人です。
 「都にあるならば」=「まだ都にいるわけではないが、もし都にいたら……」
  →こうして都にいたら、またつらいめをもみるだろう(文英堂「全解古語辞典」)
 
おわかりでしょうか?
あとは例文と訳だけ出しておきますね。
 
⑤ただ今、行方なく飛び失せなば、いかが思ふべき(更級日記・大納言殿の姫君)
→たった今、(私が)行く先も知れず飛んでいなくなってしまったら、(あなたは)どう思うつもりなのか
ベネッセ「全訳古語辞典」
 
⑥道長が家より帝、后立ちたまふべきものならば、この矢当たれ(大鏡・道長上)
→(この私)道長の家から天皇や、皇后の位にお就きになる(人物が出る)はずのものであるならば、この矢が命中しろ(ベネッセ「全訳古語辞典」)
 
あしたは、ややこしい(=めんどくさい)「已然形+ば」を説明しましょう。
 
 
 
 

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